Kさんに教える 前編 H11・8/17


 「いやー、最近部長に連れられてね。始めてゴルフの打ちっ放しに行ってさ。これが面白いんだよね。」

 kさんは年の割には薄くなりかけている七三の前髪と高い鼻に特徴があった。当時35歳は越えていたと思うがにニコニコして言うのである。
大手のタイヤメーカーに勤めており、前は会社のOLの話をよくしていたのだが、ゴルフの話をそれからよくするようになった。

 始めてグリーンに出た時は、今の言葉でいうなら都会の若いお母さんが始めて子供を「公園デビュー」(この言葉を聞いた時は私はつくづく子供が田舎育ちで良かったと思った。)させるような事だったのではないかと今なら回想する。
最初はハラハラドキドキ、洋服の色などを気にして
「うまく他のお母さん達とうまくやっていけるかしら、子供はなじめるかしら。」
公園デビューとは子供が主体ではなく実はお母さんが主体なのだろうと思う。

 kさんも初めての時は
「うまくやれるかしら。恥かかないかしら」と思っていたことだろう。もしかしたら
前の日の晩ぶつぶつ言いながらルールブックを読み返したかもしれない。

 ところがグリーンデビューし2度3度と慣れると、「イヤー!ゴルフってさ、奥が深い。深い!」などと言いスイングのフォームの連続写真をカウンターで見ながら「ここがね。ヘッドがさ」と私に言い、素うどんを食べたりするのであった。

 kさんは独身で、会社の帰りに車で立ち寄るので、アルコールを飲むことはできない。それでうどんを食べたり冷やしトマトを食したりしていた。
 私もほぼ毎晩Hに顔を出していたが、kさんは私よりも皆勤賞ものだった。
そして事あるごとに「ゴルフって面白いよ」と回りの親しい連中に言うのである。

 今でも思うことだが、ゴルフの好きな人というのはとにかくその面白さを説き、普及員の様になり、先ず会話のはじまりが「最近行ってる?」なのである。そして教え魔と化すらしい。私は一度だけkさんに連れられて練習場に付き合った事があるが一緒に行った1人がクラブを勢い余ってスイングの時に飛ばしてしまい、回りの迷惑になりながらクラブを拾いに行った事がありそれだけではないが、何となく自分にはあわないなと思ってそれきりだった。

 俳優の中村雅俊も若い頃はスタッフがゴルフをやっているのを見て「そんなのやめろ!くだらん」と言っていたらしいが今では夢中になり自分のラジオのゲストに「今度行きましょうよ〜」などと言っているのを聞いた事があるが彼もまた
ゴルフのすばらしさを知らなかっただけだと話しているのでゴルフとはやはり奥が深いのだろう。

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 ところが店の客でゴルフをやるのはkさんぐらいしかいなかったのである。だいたい劇団に通ったり、バンドをやったりしている連中が多いのだから、ゴルフとは最も縁遠いわけである。
 反体制という言葉もおこがましいが、松田優作に憧れたり矢沢永吉の歌を歌ったり、ストーンズの曲をがなっている連中には無縁の世界であり、ましてパンクロックをやっている連中にとってはkさんは敵に見えたのではなかろうか。私にとっては敵ではないが別世界の事だった。

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 私はその日もまた、kさんのゴルフ談義を聞きながら、ビールを飲み鯨飲馬食ではなく馬耳東風でママさんが出してくれたおかま納豆を食していた。おかま納豆とは冷やヤッコの上に納豆が乗っているというしろものなのだがどちらも豆からできる同類?なのでそういう名前にしていたのだろう。
ビールのつまみにその納豆を食いながら、kさんの話しに「ウン ウン」と適度に相づちを打っていたら、「ねぇ、じゅんちゃん、ギター教えてくれない?」
「ウン ウン・・・うん? えっ?」驚いてkさんを見た私の口から納豆の粒が落ちた。  

次回は後編です。「名曲:あの日に帰りたい」をやりたい

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