紫の微笑 H11・1/22

 
1987年、秋の青い空に、羊の毛をちぎって貼りつけたような雲が浮かんでいたある日。

大学の学園祭のバザーで私は全く買い手を拒否しているとしか思えないがらくたのランプやオルゴールを手に取ったりするのに飽き、高校の文化祭に毛の生えたような学園祭だな〜と思いながらベンチに座りビールを飲み始めたときその迷惑な音が聞こえてきたのである。
 
 「いたいた」私は「破れたパンツと空き缶はくずカゴに〜」とすでに腐ったコピーをつぶやき空き缶をくずカゴに投げいれ音のする方へ向かった。
 
後ろを後に妻になる女性がコツコツと靴音を聴かせながらも奥ゆかしくついてくる。私が学園祭にきた目的はこれだった。ザ バァ〜ンド!そう文化祭、学園祭となると現れる欲望の昇華行動隊である。音のする教室に入っていくと、いた!
 
 ジョンがイアンがロジャーがそしてギランとリッチー!大音量でパープルのナンバーを奏でている。リッチーはジーンズに白いブーツを履き、紫のジャケットを着込み顔はどこかビーバーに似てそして太っていた。
 
 客は5、6人である。リッチーは脱色したような茶の長髪を振り乱し指はネックをムカデのように這いものすごい早弾きフレーズを連発する かなり上手い。今まで見たリッチーの中では最高に近かった。(当時は何万人ものリッチーがいたはずである。)そのリッチーを見ながら私はある予感を覚えた。こいつはやるかもしれないなと。

 そして何曲か後彼は超有名なあのイントロを弾き始めた。ジャッジャッジャージャッジャッジャジャー(ぽっぽぽーはとぽっぽーではない)
 
世界中の数えきれないギター少年がガレージやアパートで練習しその何倍もの人々を騒音公害にさらしたといわれるあの4度の和声のリフを。
 
 ギランの歌が終わりリッチーは猛烈なソロを弾き始めそしてジョンがオルガンのソロを入れている間にリッチーは白い薄汚れたストラトタイプのギターに持ち替えた。


ついにきたのである。彼はこれから破壊神になるためにノイズのひどいジージーいうギターを手に取ったのである。
 
 グニョグニガギーン〜激しくアームを揺さぶり陶酔する太ったリッチー。
 しかしここは教室だ。どうするリッチー、床に傷がつくぞと思ったときなんと今まで客と思ってた連中が立ち上がりリッチーの前にうやうやしく新聞紙をしいた。
 
 そしてその上にコンクリート ブロックをおいたのだ。おお!その手があったか。
手際の良さに感動するのであった。
 
 リッチーはコマネズミ、いや、鬼神のような早弾きを決めた後まさかりで薪わりをするかのようにギターを振り上げブロックにたたきつけた。がつん がつん!だめだ。いけない!

 3度目ネックがついに折れた。リッチーはキーキーいうハウリングの中で紫の上着を振り回す。 身内の客のオー!というどよめきとパラパラの拍手の中、ビーバー顔のリッチーはかすかに微笑した。

 白い薄汚れたストラトは天使か悪魔かわからないがどちらかに捧げられたのであろう。

 終わったな〜とふと隣の妻をみると今し方見たリッチーの微笑とは対照的に眉間にしわを寄せ怖い顔で私をみている。私はここに告白せざるを得ない。彼女は実はロックが大嫌いなのだ。私の後を決して奥ゆかしくついてきたのではない。彼女はどちらかというと私の先を歩くような女なのである。歩いている間、おそらく彼女は私の背中にその大きな瞳から氷の刃の視線を浴びせ続けていた事は容易に想像できる。

 翌年、私はまた学園祭に出向いた。しかしそこにはビーバー顔のリッチーの姿はなく、また私の隣にも妻の姿はなく、昨年客と思っていた連中が何かを演奏し客はまた5、6人だったのである。

 ビーバー顔の太ったリッチーにとっては卒業記念の破壊行為だったのかもしれないが彼のようなハカイダーリッチーが当時は何百人もいたかどうかは定かではない。  

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