昼 酒 (H12・12/31)


 スーパーは大晦日は朝6時からの営業だそうだ。
「朝早く行かなきゃ」と昨日OLが言っていたが今の6時は暗い。
そんな早くから買い出しに行く人はどんな人なのかと思っていたのだが 近くにいたわけである。

「11時から生栗の皮をむいてたら次の日になった。」とOLは続けて言う。栗きんとんを作るのだそうだ。 えらい手間だなと思ったらそんなに苦にならないらしい。 女の人は大変だと思いながら常に「私食べる人」の側にいるので料理の苦楽はわからない。
「今日何食べたい?」と聞かれても「何でもいい。」 大概こうだ。女の人にはそれが困るらしいが大概の男はそんなものではないだろうか。

 夕食の買い物につきあい市内では有名なSというそば屋に入ると 椅子に座り背中を向けて新聞を読みながらビールを飲んでいる角刈りの男がいた。
11時を少し回った頃だ。 仕事明けということはこの大晦日にはないだろうからこれから眠るわけではないだろう。
回りはほとんどが家族連れでタモリが出るTVを見ながら笑っている。
 昼から外で酒を飲んでいる男を見るのは別に珍しいことではない。 ただ大概2人か3人それ以上のグループである。例えば旅行の途中とかで大きな声でガヤガヤ話しながら飲んでいる。

 一人で飲んでいたのが珍しく思えた。 店に入った瞬間「おっ」と思った。 ビールを飲んで新聞を読んでいるのが自由だなと思ったのである。 スポーツ新聞ではないようだったが。

 20代の頃競馬場で勝っていても(あまりなかったが)負けていても飲んでいた。
昼の酒は明らかに味が違う。
それは後ろめたい味ではない。夜、飲む酒が疲れを癒すものなら 昼の酒は気持ちを奮い立たせるものである。 (気持ちが奮い立っても勝てないものは勝てないのだが)

 公営競馬は平日開催されている。
「手を出さない方がいいよ。仕事の日にやることになるから。」と言う人がいた。 別に仕事をしていなければ関係ない事だった 。
 
 勝った人も負けた人も同じ道を歩いて帰るのでおけら街道というのはふさわしくない。
 それが駅への近道だったのだろう。子供たちが遊んでいる公園の中を通り垣根がつぶれ地肌が見えた土手を越える。獣道みたいだと私は思った。上から見た蟻の行列みたいに列が続いている。
時折列から声が聞こえるのは幸いにも勝てた人たちなのだろう。 他は黙々と歩いている。
 
 そして駅に近づき狭い商店街に入ると列からはぐれるようにコマが寄せられたように飲み屋に入っていく人々がいる。それができない人は 自動販売機から缶ビールを買ったりするのだ。
 それもできない人は駅の階段をホームへ上がるだけだ。
私は後者だった。 競馬場で飲むことはできても店では飲めなかったのである。 そんな心の余裕はなかった。
 夜に居酒屋で一人で飲めても 昼に一人で飲むことはできなかった。
 
 今はその競馬場がどこだったのかも記憶にない。 そして気持ちを奮い立たせるために飲む事もなくなった。
中華そばが四つ運ばれてきた。 大盛りがひとつ。三つは普通。
ビールを飲みたいが家人に言ったら「はぁ!!」 と言われるのは目に見えている。 いつものように長女がシナチクとネギを残し次女は麺とネギを残した。
 残り物を食べている間に角刈りの男は立ち上がり、 ちらりと横顔を見せ後はまた背中を向けいなくなった。
あの男はどこへ行くのだろうと思った。
   トップページへ 原稿用紙日記目次へ