| 「丈ちゃん久しぶり」 結婚式の帰りに店に寄るからと前の日に電話がきていた。 あれからもう何年たったのだろう。 哲夫が東京からきた。 「奥さん元気か」丈治が聞く 「元気だな相変わらず」 哲夫は笑いながら髪を掻き上げた。 何年か前の事だ ・・・・・・・・・・・・ 「開けろ警察だ。!」 ゴンゴンゴンと夜中にドアが乱暴に叩かれた。 4人は顔を見合わせた。 マージャンの最中だった。 「なにかしら!」 女はびっくりして男の顔を見て聞く。 哲夫は顔面蒼白である。 「とりあえずドアを開けて何かありましたかと聞いたら」と丈治の対面の松が言い右側においたみかんに手を伸ばした。 別にレートの高い麻雀をやっていたわけではなかった。 麻雀を覚えたばかりの哲夫の女が入っているので1000点50円の高校生がするようなレートだった。 しかし顔面蒼白の哲夫以外の3人はやはり賭け麻雀の事で警察が来たと思っていた。 「こんな麻雀くらいで警察が来るかな。偽物じゃないのか。」丈治は妙に落ち着きのない哲夫を気にしながら言った。 「早く開けろ。調べはついている。」ゴンゴンゴンとまたドアが叩かれた。 「大変だつかまっちゃうよ!どうしよう」哲夫の顔がこわばる。 女が言った。 「あんた!まさか誰か殺したの」 「バカそんなことあるわけないだろ」 「じゃサラ金強盗!この前近くであった!」 「借りてるとこに強盗するか!」 その間もゴンゴンとドアが激しくたたかれる。 「丈ちゃん一緒に来てくれる。」 哲夫は哀願するように丈治を見た。「うん。」丈治はTVのボリュームを上げ麻雀の牌を片づけさせてから短い廊下を歩き玄関に向かった。 ゴンゴンと乱暴にドアを叩いている最中にガチャリと鍵をはずし扉を向こう側に思いきり開放した。 「ガン」と言う音がしたとたん「いてえー」と声が聞こえた。 そしてドアの向こうから見覚えのあるサングラスの男の顔が覗いた。 笑っている。哲夫の友人だった。 「驚いた。ごめん」と言いながらわびたが丈治の後ろから首を出した哲夫はもうかんかんである。 なぜつかまっちゃうと哲夫は言ったのだろうか。 哲夫は絶対理由を言わなかったがそれからしばらくして2人で飲んだとき理由を話した。 ・・・・・・・・・・・ 哲夫の住むアパートの裏の向かいに五階建てくらいのどこかの社宅があった。 アパートは一階が2世帯二階に3世帯。哲夫の部屋は二階だったが裏手の階段を上がるようになっていた。 ある時階段を上がり何気なく右手に見える社宅を見ると一階の部屋から白いレースのカーテン越しに女性が洋服を脱ぐ姿が見えた。 ブラウスを脱ぎ捨てすぐにスカートを床に落とした。下着だけの姿で歩き回るのが見える。 哲夫はどきどきしながら部屋に入り急いで社宅に面した部屋の窓をいくらか開けた。 アパートは2DKで6畳と3畳ほどの部屋があり6畳の方は通りに面し3畳の方が社宅に面している。 灰色のコンクリート壁の社宅とアパートの距離は15m程だった。 ほどなく彼女は別の部屋に消えた。 哲夫の帰宅時間はだいたいいつも7時頃だったがたまたまその日は会社に書類を忘れ取りに戻ったため時間が8時ぐらいになっていたのだ 哲夫はそれから毎日8時頃の女性の帰りが楽しみになった。 毎日見ていたわけではないが、彼女は帰宅すると何かから解放されるように服を脱ぎ捨て風呂に入るのだろう30分程いなくなると頭にバスタオルを巻いただけの裸体のまま居間に現れそれから別の部屋へ行き、また裸のまま現れ部屋を行ったりきたりした。 レースのカーテンだけだったら透けて見えるという事に気づかないのだろうか。 ものすごい美人というわけではないが彼女は哲夫に寄り道をしないで毎日真っ直ぐ帰ってくる気にさせるには充分魅力的だった。 下着はほとんど白で時々ピンクになった。しかし特に派手な形のものは身につけていない。 頭の中にこれは覗きなのだろうかという考えが浮かんだりしたが別にこっそり見ているわけではなく窓を開けると普通に見えることだったので罪悪感などはまるでない。 他の部屋はほとんどカーテンをし光が漏れてこないのだがこの女性の部屋だけは白いレースのカーテンを通して光が裏の空き地を照らしている。 彼女を見ながら哲夫は誰かが自分を見ているのではないかと思い社宅の他の部屋のカーテンで閉ざされている窓をひとつひとつ見てみる。 いくつかの窓のカーテンからは光がわずかに漏れている。 四角に切り取られた部屋の窓から無数の眼が自分を見ているのではないか。そう思うと哲夫は少しづつ窓を閉めていき5cmくらいの隙間から毎日彼女をみるようになった。それでも不安になり今度は鏡を使うことを思いついた。 窓の近くのタンスに鏡を置きそれに写る裸体を見る。こうまでするとこれは覗きだなと思った。 「限りないものそれは欲望 という歌があるだろ」哲夫は井上陽水の歌詞を丈治に言った。 もっとよく見るためにオペラグラスがあったことを思いだしそれで鏡を覗き込むようになったと言う。母親と一緒に帝国劇場に演劇を見に行った時母に買ってあげたものだ。 バーボンを飲みながら椅子にもたれ窓の全面が映る折り紙の大きさくらいの鏡をオペラグラスで覗き彼女の動きを確かめる。 目の前を行ったり来たりする彼女の裸体は均整がとれていた。 グラビアでも見るような形のいい乳房と張りのある腰、そしてその下腹部を凝視した。 1ヶ月ぐらいたった日曜日の朝、哲夫は彼女と近くのスーパーで会った。 といっても哲夫は彼女を知っているが彼女は哲夫を知らない。 心臓が張り裂けるようなどうきを覚えながら買い物かごを持ち彼女の後をついて回った。 彼女は始めにブルガリアヨーグルトを3個買い、そして卵とひき肉、カワハギのむき身。それとトマトとタマネギとレタスを買った。 そして前屈みになり水色のノースリーブのワンピースから青いプラムのようなつやつやした腕がすっと棚の奥の方に伸びレモンを取った。ボブカットというのだろうか、うなじのあたりできれいに揃えられた栗色のチョコレートの様な色をした髪の毛が斜めに下がる。哲夫も彼女が 取ったレモンのとなりのレモンを取った。 服を着ている彼女は着やせしている。 普段鏡のなかに見える彼女はもっと肉感的だった。 きりっと引き締まったウエストとつんと上向いた胸。 この薄い布地の下にいつも自分が見ている白い絹のような色をした裸体が隠れている。そう思うと哲夫は耳たぶが、かっかとするのがわかる。 生唾を飲むとはこのことだなと思ったそうだ。 レジで彼女の後ろにつき横顔を凝視した。 オペラグラスの中にいた15m先の彼女が今50cmの目の前にいる。 自分が鉄になり磁石に吸いよせられていくような錯覚を覚える。 ・・・・・・ 「で、それからどうした」丈治はグラスにビールを注いだ。 「後をつけて名前を確かめた」 「独身か?」 「そうらしい。男がいるところは見たことない。」 「だいたい毎日脱ぐのか?」 「うん。3回に2回は脱ぐ。」 「露出狂じゃないのかそれ?」 と言いながら丈治は哲夫の右手の腕時計をみた。 7時半を指している。ふたりは店を出た。 本当にきれいな体をしていると丈治は思った。 「な、すごいだろ。」 女は頭にターバンのように白いバスタオルを巻いたまま部屋を歩き回る。 そして裸のまま籐椅子に腰掛け足を組みリモコンでTVをつけてたばこに火をつけた。ライターのカチッと言う音が聞こえてきそうな近さで女の裸体がオペラグラスを通して目に入る。 ・・・・・・・・・ 哲夫から話を聞いてから3ヶ月もたったろうか土曜日に丈治は哲夫に誘われ飲みに行きそのまま夜遅く哲夫の部屋に行き泊まった。 朝起きると哲夫がスポーツ新聞を買ってくると言い出かけた。 カツカツと鉄製の階段を降りる音が聞こえる。30分たっても帰ってこない。駅の売店までは5分ほどである。 どうしたんだろうと思いながら丈治は水を飲みに流しに立った。 ふと3畳間の窓をみると半分ほど開いている。 丈治は窓に近づき階下を見下ろした。 「あ!」 どういうことだろう。いつもは閉じていた社宅の部屋のレースのカーテンが開かれ哲夫が籐椅子に座りコーヒーを飲んでいるのだった。隣にはエプロンを締めた女が座り、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。 丈治の姿を見つけた哲夫はニコニコして手を振りコードレスフォンを指さした。 すぐに部屋の電話が鳴った。 「起きた?」 「おまえなにしてんだ。そこで!」 「結婚することにした。丈ちゃんだけには教えようと思って。」 哲夫は笑いながらひらひら手を振った。 ・・・・・・・・・ 哲夫は今までつきあっていた女と少しもめたが別れ、彼女とアパートで二人で暮らし始めた。 丈治は哲夫が結婚した後も麻雀に誘われアパートに行き階段を上る度に階下に見えるあの部屋をつい見てしまうのだった。 ある時哲夫にその話をしたら哲夫は「俺も未だにあの部屋を見てしまうんだ。もしかしたら女房があそこに現れるんじゃないかって」と言った。 部屋は誰が住んでいるのかわからないが夜になると厚いカーテンが閉められたままだった。 ・・・・・・・・ 今二人は近くの広いマンションに移ったらしい。 「なあ なぜ奥さんはあそこでいつも脱いでいたのかな。」丈治がワイルドター キーの水割りを作りながら聞く。 「・・・わからないけど脱いでなければ結婚しなかったと思う。」 「聞いたことないのか?」 「ない。でもいい女房だ。」 哲夫はもらったグラスをカチャカチャ揺らしながら言った。 トップページへ Drの一気読切 目次へ |