挫折と左折(サラ劇 8)   H11・10/9

サラ劇 7
 
 「課長、今日あたり英会話の勉強に行きませんか」
「なに、NOVAでもできたか。♪ノバノバノ〜バノ〜バ〜あーる晴れた昼下がり♪の情事はドヌーヴだったけ?」
「そう!フランスの岩下志麻のカトリーヌ!じゃなくて最近出きたモテモテですよ!」

 金曜日のお昼に田畑と高木は季節はずれのざるそばを食っていた。
「大通りにできたフィリピンパブか?」
「そーモテモテですよ」
「確かモテモテって言う名前の酒があるぞ。旭化成だったかなぁ。向こうはひらがなだけど」
「この前一課の連中が行ってきたそうなんですけど、ルーマニアのダンサーがきてるって、なんでもレイラちゃんという子がコマネチ、コマネチのギャグをやるそうですよ。」

 田畑の頭の中にはなぜかダンサー−東欧−白鳥の湖という連想が出来上がりそれからますますなぜかテイジンの大屋マサコの白タイツ姿が浮かんだ。

 身震いしながら田畑は頭の中からマサコを消そうとするがそれは一度こびりついたトイレのウンコのようになかなか消えない。

 小学生の頃田畑はソロバン教室へ通って2級まで合格したのである。
ところがある時祖父が、「いいのがあるぞ!」と言い物置から五つ玉の大きな昔のソロバンを持ち出してきた。
小学生の田畑はその下に大きなタマ栗のような玉が五つあるソロバンを一度見てしまった瞬間暗算をする度に4つ玉ではなく5つ玉が浮かびそれから暗算が不得手になった。

 ソロバンの下の玉は4つ玉だという中に思いもしなかった5つ玉の存在を知りそのインパクトが強く今では暗算をすると5つ玉ではなく7つも玉が出てきたりする。
その時と同じ様に一度TVで見た大屋マサコのバレエのタイツ姿が脳裡から消えなくなりざるそばを食いながら懸命にマサコを消そうとする。

「それで一応通訳で江川も一緒に3人で」高木は田畑の頭の中にマサコが浮かんでいるとはつゆしらず(当たり前だ)
言った。
「最も英語は必要ないでしょうけど」

「江川が通訳だと!できるわけえね−だろ!あいつ履歴書に英文科卒業とあったから外人向けの事故の注意事項書いてこいと言ったらライバル会社の丸写し持ってきて3日も考えましたとか言ったんだぜ。
おまけに単語の間違いもそのままで礼加女史が教えてくれなきゃ
えらい恥かくとこだった。」

「課長自分で書けばよかったでしょ」

「それができたら苦労するか!頭に来てどやしつけてやったら英検受ける前に実は挫折しましたっていうから
お前のは挫折じゃなくて左折だろと言ってやったよ。だいたい挫折と言う言葉は一生懸命やったけどダメだったというのにあいつの場合ウインカーのパーカパーカの左折だよ。それも10mも行かないうちにな」

 高木は笑いながら「最近出島専務からゴルフをしこまれているみたいですね。気が弱くて断れなかったみたいですよ。彼、主体性がないから。」と言った。

 実は高木も誘われたのだが、高木は「ローンがあってできません」とよくわからない理由で断っていたのだった。昔バンドで作った自主制作のCDの借金を高木はいくらかかかえておりゴルフは金がかかるので無理だというわけだ。
・・・・・・・・
 夕方モテモテに行く前百足屋で3人組は飲んでいた。ドジョウヒゲの親父が田畑に言う。「この前はどうも。いや久々に楽しかったですよ。専務の麻雀の話し。覚え立ての頃友人が、ハク バツ チュン、ドライチ 満貫て言ったっていう」
ドジョウは笑いながら指を4本折り言う。
江川は笑っているが田畑はそれは友人じゃなくて実は専務自身の事なんじゃないかと思いながら聞いていた。

 実際、社長の島内に言われて接待マージャンをたまにするが、島内が専務に頼むのは、専務が本気で打っても接待になると彼の力をみているからである。相手にとっては見え見えの接待を嫌う人もいるので、その点本気で打ってもそこそこというのは誠に具合がいいのである。

 田畑自身はまるで緊張感のないマージャンを打っているが、これは田畑が接待以外、牌を握らなくなり勝負カンというものが緩んでいるからだがそれでも大負けするような相手とはあったことがない。

 江川が日本酒を飲みながらドジョウに聞いた。「おやじさんもマージャンするの?」
「ええよくやりましたよ。古川凱章みたいにタンヤオを基本にすればいいのに、わたしゃ派手な手が好きだから11PMで初めて小島武夫を見たときはびっくりしましたよ」

 古川凱章も小島武夫も阿佐田哲也(色川武大)の元で麻雀新撰組と呼ばれていた強者。小島武夫をTVに引っぱり出したのは野球は巨人、司会は巨泉の大橋巨泉である。

「フルカワガイショウ?」江川はその名前を知らないらしいが根がバクチが好きなので色々ドジョウに聞いている。
ドジョウも昔バクチが過ぎて、店をたたんだ話とかを田畑と江川に面白おかしく話していつしか仕事を忘れ仲間に加わり一緒に飲み始めた。

 高木は全くバクチをしないし彼らの話が全くわからないので
ただ黙って飲んでいる。頭の中にはこれから行く「モテモテ」のレイラちゃんってクラプトンの恋人だったパティみたいかなと、これまた誰もわからないような事を一人で考えているのだった。

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