メロディ (bar-5)  H11・8/4

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 男は写真の専門学校に通っていたが、就職先がカメラの安売り店という実体に嫌気がさし、やめてあるカメラマンの助手になった。
「でも料理雑誌の写真撮りで料理に筆で色をつけたりする仕事をしてる」とつまらなそうに話した。

 女はエクステリアの仕事をしていると言う。
毎日得意先から電話でヒンジの注文を受けていると言った。

 飲み干したアイスコーヒーの氷が溶けてほとんど味がしないのをストローですすりながら、2人は店で流れる音楽のあてっこをしていた。
「ねぇ、これ何ていうの」
「サテンの夜、ムーディ・ブルース」
「これは」
「青い影、プロコルハルム」

次に軽快なイントロが流れた。
「これは知ってる!恋のかけひき!」女の声が弾んだ。
「誰が歌ってた?」
「ハミルトン・ジョーフランク&レイノルズよ、昔TVで聞いたわ。和田アキコが出てた音楽番組」
そして歌にあわせて口ずさんだ。
・・・・・・・・・
 2人は3回デートしてから部屋を探し一緒に暮らし始めた。
男は安定した仕事をと思い転職し自動車学校の指導員になったが、女は英会話の教材セールスから、借金を作り、六本木のクラブに勤めるようになった。

 女がヨーロッパに行くと言い出したのは暮らし始めて2年後の事だった。。店の友人と2人で1ヶ月程滞在すると言う。「南回りで行くとすごい安いのよ。パキスタンで4時間待ち合わせだけど、びっくりするような値段でチケットが手に入るのよ」とウキウキしながら言った。
「飛行機って落ちることがあるぞ。」男は半分本気半分じょうだんで言った。

女が留守の間男は二度女の絵はがきを受け取った。ロンドンとマドリッドからだった。
「元気、ご飯食べてる。今日はね・・・・」男は何度もハガキを読んだ。
 
 男は女が留守の間、時々女のヤマハのRZにまたがり2人で行った峠を1人で走ってみたりした。帰ってくる一週間前、本棚に女の日記を見つけた。
「もやがすごい。テールランプだけを頼りに走る。なんか今日は機嫌が悪そう。どんどん遠ざかる。峠なのに・・・・・」

 俺の事だなと男は思い、次のページを開いた。誰かが撮った女の水着の写真がはさんである。
 前のページの日にちを見て男は自分の手帳をめくる。日曜日の所に「結婚式で帰郷」と書いてあった。男はヨーロッパから帰ってきた女を問いつめる。
女は下を向き泣きながら「あなたって家族みたいなんだもん」と言った。

 相手の男はクラブのボーイをしながらジャズバンドでベースを弾き
ドゥカティに乗っている。と言った。
ツーリングにも行ったと言う。「ストイックなのよ!」

 男はレコードを部屋の中で次々と飛ばした。壁にぶつかるとパキーンと乾いた音がしてカラスの羽をちぎったような黒い破片が飛ぶ。不要なレコードを選んだつもりで10枚レコードを投げ最後にグラスを2個放り投げ部屋を出た。
「顔だけには絶対投げなかったけどな。」と男は言いながらブランデーを飲んだ。
男は1度だけクラブの前まで行き赤と緑が鮮やかなドゥカテイを確かめたと言う。
・・・・・・・
 ドゥカティの男は大阪に帰るため飛行機に乗ったらしい。

 乗客名簿が発表される。お盆休みまで後1日だった。
TVを見ていた男はカタカナの見覚えのある珍しい名字と普通の名前を見つけた。
驚いて電話帳で調べた電話番号に電話をしたが出ない。
女にもすぐに電話をかけたが出ない。不安になりながら30分おきに電話をかけた。女が出たのは夜遅くだった。
理由を話し誰かに聞いてみろと言った。

 しばらくたってから泣き声で女が電話をくれた。搭乗していたと言う。
「こんな事を俺から聞かなければならないなんて情けないと思わないか!」
こんな大変な事を自分でわからないなんて!」男は怒鳴る。
電話口で泣きじゃくる声が聞こえる。「半年前に妹がガンで死んで・・母親だけだったのに母親が一人に・・なっちゃった。」
 男はそれから毎日新聞を見た。秋風が吹くような頃やっと遺体の確認ができたようだった。

・・・・・・・・
「ドゥカティはどうなったんだろう。どっかで生きてるかな。」男は丈治に言う。
丈治の頭の中には赤と緑色のバイクとダッダッダという排気音が聞こえてくるが乗っている人の顔は見えてこない。
・・・・・・・・・
男の胸から聞き覚えのあるメロディが鳴った。
携帯電話を取り出した男は「わかった。わかった。」と言い
電話を切った後けだるい声で「カミュを飲むわけはカミュ酔いの亭主だから」とどうしょうもない事を言い店を出る前に丈治に笑いながら「昔はいい女だったんだよ」と言った。

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