誰が墓参りに来る(bar-3)  H11・7/10

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 小町通りにある丈治の店は常連客が多いのだが
その男が来たのは2度目だった。
男は女連れだった。

「このつぎみんなで会えるのは還暦かな。」女が言う
「還暦でなんか会いたくないよ。」
「どうして」
「みんな髪は薄くなって、女の人はしわだらけ。そんなの見たくないよ。ちゃんちゃんこは鬼太郎だけでたくさん」
「ふーん」

「だいたい40過ぎて会ってるのが不思議なくらいだ。こんな生きれるとは思わなかった。」
「わたしは会いたいなぁ」
「33の時もさ、実は会えるとは思ってなかったんだよね。高校も違ったし」
男はそう言い女の方を向きにこっとした。
・・・・・・・・・
 どうやら年祝の帰りらしい。
カウンターで男はバーボンを頼み女はビールを頼んだのだった。丈治がグラスに垂直に一気にハイネケンを注ぐのを見て女はびっくりして体を後ろへずらした。

「旦那がまた浮気してるみたい。」女が突然ぼそっと言った。
「えっ!同じ人?」
「・・・うん。」
「はっきりわかったの?」
「いい人でね。私も仲がいいのよ。家にきてバーベキューやったりするときは2人で太い串に肉を刺したり、あれって気持ちいいのよ。突き抜ける音が」
「他の社員もくるんだろ。」女はその問には答えず
「下の子供と遊んでくれたりするのよね。」抑揚のない声で言った。

「昔宝くじが当たったら、慰謝料にして2人で暮らそうと言ったこと覚えてる。?」少し高い声で女は続けて言う。
「ああ、・・そうしたら回りが全て不幸になるなと言ったことも覚えてる。」今度は男がぼそっと言った。

 女は茶色のスーツを着ていた。水沢アキに似ている。あまり会話を聞かないようにしているのだが他に客のいない店には2人の言葉だけが
川のよどみのようにたまるのだった。

「学校の事覚えてる。」
「うん、ノコギリ校舎、屋根がノコギリの刃の形してたんだよね。」
「あの学校沈んだのよ。取り壊された後だけど、私時々思うの。もし私が死んだら誰か墓参りに来てくれるのかなって」

「悲しい事ゆうなよ。同級生がか?ねぇ血液型何型だっけ。?」男が聞いた
「あんたとわたし、似てるのよ。血液型は違うけど。あんたは典型的なO型だけど」


「明日、子供に弁当作らなきゃいけないなぁ、生意気になってもう最悪。」女の話には脈略がない。
「どこが?」
「ルーズソックスなんかはいてるのよ。もう。」
「今は普通じゃないの?」
「胸も大きくなってるし、あいつ!」
「自分より大きいからか」男は少し笑いながら言った。
 2人はそれから学校の話をした。話の内容が聞こえなければ楽しそうに話す2人は恋人同士のようにみえる。

 丈治は2人の会話が少しとぎれた時に男に言った。「すいません、ちょっとタバコ買ってきますから留守番しててもらえますか。客が来たらちょっと出かけてると言ってもらえば。どうせ常連ばかりだし」

 引き出しから念のため札だけを持ち外に出て、タバコに火をつけ角のタバコ屋に歩き出した。一月の鎌倉はさすがに寒く風が冷たい。
20mも歩かないうちに「丈ちゃん」と後ろから誰かが呼ぶ。松だった。

「なにしてんの?店は」
「客に留守番してもらってタバコ買いにいくんだよ。」
「そっか、じゃ早く帰って明日の金杯検討しようぜ」松は丸めた競馬新聞で丈治の腹をポンポンたたいた。

「みせてみろ」丈治は松から新聞をとると外灯の下で新聞を開いた。松が赤線で消した何頭かの馬を見ながら丈治はぼそっと言った。

「同い年の騎手から買ってみるか」
「ヤネ買いか?」(注1)松が新聞を覗く。
「松、俺が死んだら誰が墓参りに来ると思う?」丈治は松の目をみた。

「メジロファントムさ、オバケ戦闘機の!」(注2)と言い松は「ブーン ブーン」と叫びおどけて手をひろげ外灯の下を回りだした。

注1−ヤネ買い 馬ではなく騎手を買うこと  武や岡部の馬券を買い馬の名前を忘れたりする事。

注2−メジロファントム 
      79年秋 天皇賞 2着(ハナ差)
      79年秋 有馬記念2着(ハナ差)
      80年秋 天皇賞 2着
    別名 オバケ戦闘機、
79年秋の天皇賞はスリージャイアンツ
有馬記念はグリーングラスに負けた。
中央競馬の種牡馬試験に落ち、種牡馬になれなか った。
 
 その後中山で誘導馬をしていた記憶がある
生涯成績:44戦5勝 2着5回 3着10回 着外24 回

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