誰が墓参りに来る(bar-3) H11・7/10
| bar-2 へ 小町通りにある丈治の店は常連客が多いのだが その男が来たのは2度目だった。 男は女連れだった。 「このつぎみんなで会えるのは還暦かな。」女が言う |
「明日、子供に弁当作らなきゃいけないなぁ、生意気になってもう最悪。」女の話には脈略がない。 「どこが?」 「ルーズソックスなんかはいてるのよ。もう。」 「今は普通じゃないの?」 「胸も大きくなってるし、あいつ!」 「自分より大きいからか」男は少し笑いながら言った。 2人はそれから学校の話をした。話の内容が聞こえなければ楽しそうに話す2人は恋人同士のようにみえる。 丈治は2人の会話が少しとぎれた時に男に言った。「すいません、ちょっとタバコ買ってきますから留守番しててもらえますか。客が来たらちょっと出かけてると言ってもらえば。どうせ常連ばかりだし」 引き出しから念のため札だけを持ち外に出て、タバコに火をつけ角のタバコ屋に歩き出した。一月の鎌倉はさすがに寒く風が冷たい。 20mも歩かないうちに「丈ちゃん」と後ろから誰かが呼ぶ。松だった。 「なにしてんの?店は」 「客に留守番してもらってタバコ買いにいくんだよ。」 「そっか、じゃ早く帰って明日の金杯検討しようぜ」松は丸めた競馬新聞で丈治の腹をポンポンたたいた。 「みせてみろ」丈治は松から新聞をとると外灯の下で新聞を開いた。松が赤線で消した何頭かの馬を見ながら丈治はぼそっと言った。 「同い年の騎手から買ってみるか」 「ヤネ買いか?」(注1)松が新聞を覗く。 「松、俺が死んだら誰が墓参りに来ると思う?」丈治は松の目をみた。 「メジロファントムさ、オバケ戦闘機の!」(注2)と言い松は「ブーン ブーン」と叫びおどけて手をひろげ外灯の下を回りだした。 注1−ヤネ買い 馬ではなく騎手を買うこと 武や岡部の馬券を買い馬の名前を忘れたりする事。 注2−メジロファントム 79年秋 天皇賞 2着(ハナ差) 79年秋 有馬記念2着(ハナ差) 80年秋 天皇賞 2着 別名 オバケ戦闘機、 79年秋の天皇賞はスリージャイアンツ 有馬記念はグリーングラスに負けた。 中央競馬の種牡馬試験に落ち、種牡馬になれなか った。 その後中山で誘導馬をしていた記憶がある 生涯成績:44戦5勝 2着5回 3着10回 着外24 回 bar-4へ |